東京高等裁判所 平成12年(行ケ)124号 判決 2000年9月27日
原告
三重重工株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
林光佑
同
堀龍之
同
永谷和之
同
青木恭美
同弁理士
【B】
同
【C】
同
【D】
被告
石田鉄工株式会社
代表者代表取締役
【E】
訴訟代理人弁護士
植村元雄
同弁理士
【F】
同
【G】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成11年審判第35513号事件について、平成12年3月1日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、意匠に係る物品を「溝蓋用格子材」とし、その形態を別添審決書写し別紙第一記載のとおりとする登録第1049525号意匠(平成10年4月8日登録出願、平成11年6月11日設定登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
被告は、平成11年9月20日、原告を被請求人として、本件意匠につき無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成11年審判第35513号事件として審理したうえ、平成12年3月1日に「登録第1049525号意匠の登録を無効とする。」との審決をし、その写しは同月21日、原告に送達された。
2 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件意匠が、平成4年12月10日に日本国内において頒布された刊行物である第854857号意匠公報に記載された、意匠に係る物品を「溝ぶた用格子材」とし、その形態を別添審決書写し別紙第二記載のとおりとする意匠(審決表示の「無効事由2の意匠」、以下「引用意匠」という。)と意匠に係る物品が一致し、形態においても類似するものであるから、意匠法3条1項3号の規定に違背して登録されたものであって、その登録は無効とすべきものであるとした。
第3原告主張の審決取消事由の要点
1 審決の理由中、本件意匠及び引用意匠に係る各「意匠に係る物品」、「全体の基本的構成態様」及び「各部の具体的な構成態様」についての認定(審決書4頁22~37行、5頁12~26行)、本件意匠と引用意匠の意匠に係る物品が一致するとの認定並びに本件意匠と引用意匠との形態における共通点及び差異点の認定(同5頁28行~6頁7行)は認める。
審決は、引用意匠の公知性を看過して、本件意匠と引用意匠の形態における共通点及び差異点についての評価判断を誤った結果、本件意匠と引用意匠とが形態において類似するとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
2 取消事由
(1) 審決は、本件意匠と引用意匠の形態における共通点及び差異点についての判断に当たって、両意匠の全体の基本的構成態様において共通する「長手方向に連続する板片部の上端の前後に、長手方向に連続する略細帯状の板状体でなる溝片を斜め上方に向け突出して側面視して略V字状を呈する溝を形成し、形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成した」(審決書5頁31~34行)点が、この種の溝蓋用格子材の意匠では、引用意匠の出願前には存在しなかった新規な態様であって、引用意匠のみに見られる格別の特徴を現わし、形態全体の基調を決定付けるところであると認定した(同6頁9~15行)。
そして、審決は、上記認定を前提として、当該共通する基本的構成態様が、両意匠の類否判断を左右する支配的要素をなすところであり、各部の具体的な構成態様に見られる共通点、すなわち、「板片部の上端部分に細幅の肉厚部分を設け、両溝片は厚みを上方に向けて漸次薄めに形成し、上端面を細幅の平坦面に形成した」(同5頁35~36行)点と相俟って、両意匠間に類似する印象を惹起させると判断し(同6頁15~18行)、他方、各部の具体的構成態様における差異点については、差異点a、すなわち、「板片部について、本件登録意匠(注、本件意匠)は、上端部分にのみ肉厚部分を形成しているのに対し、無効事由2の意匠(注、引用意匠)は、上端部分および下端部分の双方にそれぞれ肉厚部分を形成している点」(同5頁38行~6頁2行)は、そのいずれもが引用意匠の出願前より極めて普通に知られた態様であって、この点が両意匠の格別の特徴をなすところとはいえず、類否判断に大きな影響を及ぼすものではないとし、差異点b、すなわち、「溝片について、本件登録意匠は、両溝片の上端寄りの部位から上方を急傾斜に折曲し、内壁面の上端部分を小さく略三角形状に切り欠いているのに対し、無効事由2の意匠は、両溝片の上端の前後に小さな鍔片を水平に突設している点」(同6頁2~5行)、及び差異点c、すなわち、「側面視した溝の形状について、本件登録意匠は、扁平な略五角形状であるのに対し、無効事由2の意匠は、扁平な略三角形状である点」(同頁5~7行)は、上記の新規で特徴的な全体の基本的構成態様の共通点に包摂される程度のもので、使用態様が殆ど同様の態様をなすことを考慮すると、類否判断に与える影響は微弱なものと判断した(同6頁19行~7頁2行)ものである。
(2) しかしながら、「長手方向に連続する板片部の上端の前後に、長手方向に連続する略細帯状の板状体でなる溝片を斜め上方に向け突出して側面視して略V字状を呈する溝を形成し、形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成した」溝蓋用格子材の意匠は、昭和35年9月30日特許庁受入れの米国特許第2941455号公報(甲第5号証、以下「公知例1」という。)及び昭和36年3月10日特許庁受入れの米国特許第2960919号公報(甲第6号証、以下「公知例2」という。)の各図面に示されており、古くから公知のものであって、審決が認定するような引用意匠の出願前には存在しなかった新規な態様ではない。
被告は、公知例1、2に、グレーチング(溝蓋)に係る「溝蓋用格子材」という部品(単独で取引の対象となる物品)の意匠が示されているということはできないと主張するが、公知例1に、その図4、5につき、「図1で示したグレーチングの、ベアラーバー、クロスバーそれぞれの拡大横断面図である。」(甲第5号証訳文1頁27~28行)と記載されているところ、該ベアラーバー(ベアリングバー)は、溝蓋用格子材であって、独立の取引の対象となるものである。
したがって、該態様が、引用意匠のみに見られる格別の特徴を現わし、形態全体の基調を決定付けるところであるとした審決の認定は誤りである。そうすると、審決が、かかる認定を前提として、本件意匠及び引用意匠の形態における共通点、差異点につき、当該基本的構成態様における共通点が、両意匠の類否判断を左右する支配的要素をなすところであり、各部の具体的な構成態様に見られる共通点と相俟って、両意匠間に類似する印象を惹起させるとし、各差異点、特に、差異点b、cが、新規で特徴的な全体の基本的構成態様の共通点に包摂される程度のもので、類否判断に与える影響は微弱なものであるとした判断も誤りであることが明らかである。
(3) そして、上記共通する基本的構成態様に新規性がなければ、差異点b、cにより、本件意匠及び引用意匠が別異な印象を与えるものであることは明らかである。すなわち、本件意匠は、上部の溝片が二股状に広く開いたうえ、上端で内に閉じ、全体がダリアの花のような重厚な美観的印象を与えるのに対し、引用意匠は、上部の溝片部が内側に絞り込むようにして立ち上がり、上端部を外に開く百合の花のようなほっそりとした印象を与えるものである。
被告は、両意匠の各部の具体的構成態様における共通点が、外観観察の中心となる部分で、取引者、需要者の注意を強く惹き、両意匠の類似性に極めて大きい影響を与えるものであるのに対し、差異点b、cが、側面形状を縦長のY字状に形成した基本的構成態様における部分的、かつ、軽微な差異にすぎず、いずれも類否判断に与える影響は微弱なものであるから、両意匠の全体の基本的構成態様における共通点が新規な態様ではないとしても、両意匠の形態が類似するとした審決の判断に誤りはないと主張する。
しかしながら、各部の具体的構成態様における共通点は、いずれも一般的、かつ、技術上自然な形態であって、美感を生じるような特徴的なものではない。これに対し、差異点b、cが、軽微な差異であるとされたのは、新規で特徴的な全体の基本的構成態様の共通点に包摂されるとの理由によるものであって、基本的構成態様に新規性がなければ、重要な差異となり得るものである。
第4被告の反論の要点
1 審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由について
(1) 原告は、本件意匠及び引用意匠の全体の基本的構成態様において共通する「長手方向に連続する板片部の上端の前後に、長手方向に連続する略細帯状の板状体でなる溝片を斜め上方に向け突出して側面視して略V字状を呈する溝を形成し、形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成した」点が、公知例1、2の各図面に示されているから、引用意匠の出願前には存在しなかった新規な態様ではないと主張するが、それは誤りである。
すなわち、公知例1は、名称を「COMPOSITE GRATING STRUCTURE」とする発明に係る米国特許公報、公知例2は、名称を「GRATING AND METHOD OF MAKINGSAME」とする発明に係る米国特許公報であるが、これらの公報の各図面に、グレーチング(溝蓋)に係る「溝蓋用格子材」という部品(単独で取引の対象となる物品)の意匠が示されているということはできず、単に、グレーチングという物品における格子材の部分の形態が示されている図面があるにすぎない。そして、審決が、新規な態様であると認定したのが、「溝蓋用格子材」という物品の意匠についてであって、グレーチングという物品の意匠についてでないことは明らかであり、審決に原告主張の誤りはない。
(2) のみならず、審決は、本件意匠及び引用意匠の全体の基本的構成態様が共通することのみに基づいて、両意匠の形態が類似すると判断したものではなく、これに両意匠の各部の具体的構成態様における共通点及び各部の具体的構成態様における差異点を総合し、両意匠を全体として類否を考察したものである。
そして、その場合に、各部の具体的構成態様における共通点は、この種の溝蓋用格子材において、外観観察の中心となる部分で、取引者、需要者の注意を強く惹き、かかる態様における共通性は、両意匠の類似性に極めて大きい影響を与えるものである。他方、各部の具体的構成態様における差異点は、差異点aが、いずれの態様もこの種の溝蓋用格子材においてありふれた態様であり、差異点b、cが、側面形状を縦長のY字状に形成した基本的構成態様における部分的、かつ、軽微な差異にすぎず、いずれも類否判断に与える影響は微弱なものである。
したがって、仮に、上記本件意匠及び引用意匠の全体の基本的構成態様における共通点が新規な態様ではないとしても、両意匠の形態が類似するとした審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由について
(1) 引用意匠が記載された第854857号意匠公報(甲第4号証)には、意匠に係る物品の「説明」の欄に、「本物品は道路の側溝や工場床面等に敷設される溝ぶたのための構造用材として使用されるものである。」との記載がある。
他方、公知例1(甲第5号証)は、名称を「複合格子構造物(COMPOSITEGRATING STRUCTURE)」とする発明に係る米国特許公報であり、「この発明は、・・・橋などの車が通る道で使用される新しいグレーチング構成のためのものである。」(同号証訳文1頁1~2行、なお、原文は「This invention is for anew composite grating such as those used in bridge floors and other trafficbearing surfaces・・・」であって、路上や床面の溝等に渡すために用いられる格子状の構造物の発明を意味すると認められる。)、「図2は図1のⅡ-Ⅱの線に沿って切断した縦断面図である。」(同頁25行)、「図3は図1のⅢ-Ⅲの線に沿って切断した横断面図である。」(同頁26行)、「図4と図5は、図1で示したグレーチングの、ベアラーバー(注、原文は「bearer bar」)、クロスバー(注、原文は「cross bar」)それぞれの拡大横断面図である。」(同頁27~28行)、「図面において開示されたグレーチングは、メインとなるベアラーバー6と横断するクロスバー8から構成される。メインベアラーバー6は、クロスバー8より十分に奥行きのある切片から成り、この種のグレーチングによくあるように、頂部を除いて連続している。メインベアラーバーの先端部は、上方に分かれる縁ができるように伸ばしてあり、その間に溝7が形成されている。クロスバー8は、同じく溝9ができるように形成された先端部を持つ。図面で示したように、メインベアラーバーとクロスバーは交差するが、ベアラーバーはクロスバーを受けるために切り取られ、クロスバーは適当なところで溶接されている。」(同頁29~36行)との各記載があって、これらの記載と図1~4とによれば、図3、4に示されたメインベアラーバー6は、前示引用意匠の意匠に係る物品と同様、「溝ぶた用格子材」と称すべきものであり、かつ、「長手方向に連続する板片部の上端の前後に、長手方向に連続する略細帯状の板状体でなる溝片を斜め上方に向け突出して側面視して略V字状を呈する溝を形成し、形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成した」態様であると認めることができる。
被告は、公知例1の図面には、グレーチングという物品における格子材の部分の形態が示されているにすぎないと主張するが、公知例1の前示記載に照らして、そのメインベアラーバーは、クロスバーと溶接組立てして公知例1記載の発明とするものであることが明らかであり、その組立前のメインベアラーバー自体が独立した取引の対象とならないものと断定することはできない。
したがって、前示態様が、「この種の『溝蓋用格子材』の意匠にあっては、無効事由2の意匠(注、引用意匠)の出願前においては存在しなかった新規な態様であって、無効事由2の意匠のみにみられる格別の特徴を現わし」(審決書6頁13~15行)とした審決の認定は誤りであるといわざるを得ない。
(2) しかしながら、前示態様が、本件意匠及び引用意匠に共通する全体の基本的構成態様であることは当事者間に争いがない。
しかるところ、第414097号意匠公報(乙第1号証の7)、第414097号の類似1号意匠公報(同号証の8)、第647695号意匠公報(同号証の9)、第647696号意匠公報(同号証の10)、第658109号意匠公報(同号証の11)、第658109号の類似1号意匠公報(同号証の12)、第658110号意匠公報(同号証の13)、第658110号の類似1号意匠公報(同号証の14)、第860882号意匠公報(同号証の15)、第906423号意匠公報(同号証の16)、第915632号意匠公報(同号証の17)、第932591号意匠公報(同号証の18)、第934171号意匠公報(同号証の19)、第934216号意匠公報(同号証の20)、第934216号の類似1号意匠公報(同号証の21)、第934216号の類似2号意匠公報(同号証の22)、第946163号意匠公報(同号証の23)、第966813号意匠公報(同号証の24)、第970799号意匠公報(同号証の25)、第972077号意匠公報(同号証の26)、第972077号の類似1号意匠公報(同号証の27)、第972077号の類似2号意匠公報(同号証の28)、第972077号の類似3号意匠公報(同号証の29)、第972077号の類似4号意匠公報(同号証の30)、第972077号の類似5号意匠公報(同号証の31)、第974445号意匠公報(同号証の32)、第978540号意匠公報(同号証の33)、第978540号の類似1号意匠公報(同号証の34)、第978541号意匠公報(同号証の35)、第978541号の類似1号意匠公報(同号証の36)、第982755号意匠公報(同号証の37)、第997335号意匠公報(同号証の38)、第997737号意匠公報(同号証の39)、第987798号意匠公報(同号証の40)、第1003935号意匠公報(同号証の41)、第1026125号意匠公報(同号証の43)、第1026125号の類似1号意匠公報(同号証の44)及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠の登録出願前における溝蓋用格子材の意匠の多くは、その基本的全体形状を、長手方向に連続する板片部のみからなる側面形状を略I字状とするもの(その上端部分又は上端部分と下端部分の双方に側面視して肉厚の部分を形成するものを含む。)、あるいは、該長手方向に連続する板片部の上端において、概ねこれと垂直方向に、長手方向に連続する板状部分を前後に突出して形成した、側面形状を略T字状とするものであったことが認められる。そうすると、本件意匠及び引用意匠の前示「長手方向に連続する板片部の上端の前後に、長手方向に連続する略細帯状の板状体でなる溝片を斜め上方に向け突出して側面視して略V字状を呈する溝を形成し、形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成した」全体の基本的構成態様は、たとえ、それ自体が新規のものではないとしても、両意匠において、なお特徴的な態様であるということができ、それぞれの意匠の全体の基調を決定付けるものであると認められる。
そして、本件意匠と引用意匠とは、かかる全体の基本的構成態様において共通するのであるから、当該共通点が、両意匠の類否判断において極めて大きな比重を有することは明白であって、かかる意味で、類否判断を左右する支配的要素をなすと認めることができ、さらに、当事者間に争いのない各部の具体的構成態様における共通点、すなわち、「板片部の上端部分に細幅の肉厚部分を設け、両溝片は厚みを上方に向けて漸次薄めに形成し、上端面を細幅の平坦面に形成した」(審決書5頁35~36行)点と相俟って、看者に対し、両意匠が類似するとの印象を与えるものと認められる。
したがって、審決が、本件意匠及び引用意匠の前示基本的構成態様につき、「形態全体の基調を決定づけるところであり、両意匠に共通する全体の基本的構成態様が、両意匠の類否判断を左右する支配的要素をなすところと認められ、各部の具体的な構成態様にみられる共通点と相俟って、両意匠間に類似する印象を惹起させるところといわざるを得ない。」(同6頁15~18行)と判断したことに誤りはない。すなわち、前示態様が新規であるとの審決の認定部分は誤りであるとしても、審決の記載(同頁8~18行)上、該認定事実は、前示両意匠の基本的構成態様が、意匠全体の基調を決定付ける特徴的な態様であり、ひいてその点の共通性が類否判断の支配的要素をなすとの判断の根拠の一つとされているものであることが窺われるところ、前示のとおり、前示態様が新規ではないとしても、同様の判断ができるのであるから、結局、審決の当該認定の誤りは、その結論に影響を及ぼさないものというべきである。
(3) 他方、当事者間に争いのない差異点aは、「板片部について、本件登録意匠(注、本件意匠)は、上端部分にのみ肉厚部分を形成しているのに対し、無効事由2の意匠(注、引用意匠)は、上端部分および下端部分の双方にそれぞれ肉厚部分を形成している点」(審決書5頁38行~6頁2行)であるところ、前示第414097号の類似1号意匠公報(乙第1号証の8)、第647695号意匠公報(同号証の9)、第647696号意匠公報(同号証の10)、第658109号意匠公報(同号証の11)、第658109号の類似1号意匠公報(同号証の12)、第658110号意匠公報(同号証の13)、第658110号の類似1号意匠公報(同号証の14)、第860882号意匠公報(同号証の15)、第906423号意匠公報(同号証の16)、第932591号意匠公報(同号証の18)、第934171号意匠公報(同号証の19)、第934216号意匠公報(同号証の20)、第934216号の類似1号意匠公報(同号証の21)、第934216号の類似2号意匠公報(同号証の22)、第946163号意匠公報(同号証の23)、第966813号意匠公報(同号証の24)、第970799号意匠公報(同号証の25)、第972077号の類似2号意匠公報(同号証の28)、第974445号意匠公報(同号証の32)、第978540号意匠公報(同号証の33)、第978540号の類似1号意匠公報(同号証の34)、第997737号意匠公報(同号証の39)、第987798号意匠公報(同号証の40)、第1003935号意匠公報(同号証の41)、第1026125号意匠公報(同号証の43)、第1026125号の類似1号意匠公報(同号証の44)及び弁論の全趣旨によれば、前示本件意匠の登録出願前における溝蓋用格子材の意匠において、板片部の上端及び下端の双方に肉厚部を設けたものも、その上端のみに肉厚部を設けたものも、ともに普通に見られる態様であることが認められ、そうすると、本件意匠と引用意匠の間の前示差異点aに係る差異は、格別看者の注意を惹くものではなく、両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものであるというべきである。
また、当事者間に争いのない差異点bは、「溝片について、本件登録意匠は、両溝片の上端寄りの部位から上方を急傾斜に折曲し、内壁面の上端部分を小さく略三角形状に切り欠いているのに対し、無効事由2の意匠は、両溝片の上端の前後に小さな鍔片を水平に突設している点」(同6頁2~5行)であるところ、かかる差異は、板片部の上端において、斜め上方に向け突出し、側面視して略V字状を呈する溝を形成する溝片のさらに上端部分における差異であって、本件意匠及び引用意匠全体から見れば、微細なものであるのみならず、前示のとおり、両意匠の全体の基調を決定付ける特徴的な態様というべき全体の基本的構成態様における共通点に包摂されるものであって、両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものというべきである。
さらに、当事者間に争いのない差異点cは、「側面視した溝の形状について、本件登録意匠は、扁平な略五角形状であるのに対し、無効事由2の意匠は、扁平な略三角形状である点」(同頁5~7行)であるところ、かかる溝の形状の差異は、前示差異点bに係る溝片の形状の差異によって生じるものであって、本件意匠及び引用意匠全体から見て微細なもので、全体の基本的構成態様における共通点に包摂されるものであることは、差異点bに係る差異と同様であり、両意匠の類否判断に与える影響も微弱なものであるというべきである。
そして、差異点a~cに係る各差異の内容に鑑みて、これらの差異が相俟ったことによる影響も、本件意匠及び引用意匠の類否判断において大きなものということはできない。
原告は、差異点b、cが、全体の基本的構成態様の共通点に包摂される程度のもので、類否判断に与える影響は微弱なものであるとした審決の判断は、該基本的構成態様が新規な態様であるとの認定を前提とするものであって、その認定が誤りであり、共通する基本的構成態様に新規性がなければ、差異点b、cが重要な差異となり、本件意匠及び引用意匠が別異な印象を与えるものであると主張し、また、本件意匠が、上部の溝片が二股状に広く開いたうえ、上端で内に閉じ、全体がダリアの花のような重厚な美観的印象を与えるのに対し、引用意匠が、上部の溝片部が内側に絞り込むようにして立ち上がり、上端部を外に開く百合の花のようなほっそりとした印象を与えるとも主張する。
しかしながら、差異点b、cに係る差異が、両意匠の意匠全体から見れば微細なものであり、たとえ、新規な態様ではないとしても、両意匠の全体の基調を決定付ける特徴的な態様というべき全体の基本的構成態様における共通点に包摂されるものであることは上如のとおりであって、かかる差異があるからといって、両意匠が、原告主張のような別異な印象を看者に与えるものということはできない。
(4) そうすると、差異点a~cに係る各差異は、前示の本件意匠及び引用意匠の全体の基本的構成態様における共通点に、各部の具体的構成態様における共通点が相俟って看者に及ぼす、両意匠が類似するとの印象を凌駕するものということはできず、したがって、審決が、「両意匠は、・・・形態全体の基調を決定づけるところの全体の基本的構成態様及び各部の具体的な構成態様の一部においても共通するものであり、各部の具体的な構成態様の一部において差異が認められるとしても、いずれも類否判断に影響を及ぼす要素としては微弱な差異に止まり、これらの差異点が相俟って意匠全体に与える影響を考慮したとしても、・・・両意匠の全体の基本的構成態様及び、各部の具体的な構成態様の共通点が相俟って醸し出す、類似する印象を凌駕し本件登録意匠(注、本件意匠)のみが有する格別の特徴を表出しているものとは到底いえない」(審決書7頁3~11行)とした判断に誤りはない。
2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 宮坂昌利)